文部科学省では、幼児教育を「幼児が生活するすべての場において行われる教育を総称したもの」と定義付けています。具体的には、幼稚園、保育所、家庭、地域社会などで行われる心身に対する教育全般を指し、その目的は、生涯にわたる学習の基礎を作り、好奇心などの「学びの芽生え」を育むことにあるとしています。ここでの「幼児」は、小学校就学前の子どものことです。人間の大脳神経系の約80%は3歳までに完成するといわれており、6歳までには、その90%ができあがります。幼児期は言語能力や身体能力が著しく発達し、コミュニケーション能力や社会性を身に付け始める時期です。
この時期に受ける教育は、幼児の可能性を伸ばすことに大きく影響し、生涯にわたる人格や能力の基礎、学習の土台となっていくため、とても重要なものだといえるでしょう。
「幼児教育」と混同されやすいのが「早期教育」です。両者は名称が似ており、いずれも幼児期に行われるため、同じものだと勘違いしてしまいがちですが、その目的は大きく異なります。早期教育は、受験を念頭において専門的知識を先取りで獲得する直接的な教育です。幼児本人の意思よりも、「受験をさせたい」といった大人の意向が優先されることが多く、早い人では乳児期や胎児期から始めるケースもあります。
対して、幼児教育の目的は、長い人生を豊かに生きていくための学習の基礎を作り、その基礎力を使って、将来的に自分で伸びていく力を培うことです。目指すゴールが、受験のように数年先に見えるものではないため、すぐに知識を身に付けさせるというよりは、子どもの内面を重視し、意欲や探求心を刺激しながら可能性を伸ばしていく教育といえます。
幼児教育の歴史は古く、世界各国でさまざまな内容が実践されてきました。ここからは、日本でも行われている幼児教育の種類について紹介していきます。
モンテッソーリ教育とは、イタリア人のマリア・モンテッソーリが提唱した教育手法です。100年以上の歴史があり、世界140以上の国に実践している教育施設があるといわれています。ローマ大学初の女性医学博士であり、教育家でもあったモンテッソーリは、子どもが自ら学び、成長していく力に注目しました。「自立していて、有能で、責任感と他人への思いやりがあり、生涯学び続ける姿勢を持った人間を育てる」ことを教育の目的としています。
モンテッソーリ教育の特徴は、教材とおもちゃを組み合わせた「教具」を使うことです。日常生活を意識させたり、感覚に訴えかけたりするような教具を納得するまで繰り返し使うことで、好奇心が刺激されます。モンテッソーリ教育を実践する施設の中には、縦割り保育を行う保育施設も多く、月齢の異なる子どもが触れ合うことで社会性や協調性、思いやりなどが育まれることを目指しています。
シュタイナー教育とは、オーストリア、ドイツを中心に活躍したクロアチア生まれの哲学者、ルドルフ・シュタイナーが提唱した教育法です。シュタイナーは、学習は知的なルートだけで行われるのではなく、教育は感情や意思に働きかける総合芸術であると考えました。
シュタイナー教育では、0歳から21歳までを7年ずつ3つに分け、発達に応じて、体と心、頭をバランスよく育んでいきます。幼児期には、体を使って遊ぶことを重視し、さまざまな体験をしながら自分の意思で自由に行動できる力を培います。「言葉で教え込まない」のもシュタイナー教育の大きな特徴で、大人から何かを習うのではなく、真似をしながら経験を積んでいきます。大人から子どもへの一方的な絵本の読み聞かせも行われません。シュタイナー教育は100年近い歴史を持ち、実践校は世界60数カ国1000校を超えるといわれています。
レッジョ・エミリア・アプローチ教育は、第二次世界大戦後、イタリア北部の小さな町レッジョ・エミリアで生まれた教育法です。地元の教員だったローリス・マラグッツィが中心となり、市を巻き込む形で実践されるようになりました。体系的なメソッドはなく、子どもの個性や可能性に触れたマラグッツィの詩「100の言葉」が、その理念を表しています。
子どもたちは話し合いを通して、自分の行動を自分で考えて決定する能力を育み、相手の立場を思いやる協調性を身に付けます。子どもの個性を重視し、1人1人の興味や関心に応じてカリキュラムの内容が変わるのも大きな特徴です。指導者は子どもたちに提案こそすれ、指示したり、強制したりすることはありません。レッジョ・エミリア・アプローチ教育を実践する施設では、子どもたちの様子を撮影、記録し、それを掲示することで、次に生かす「ドキュメンテーション」を行っているのも特徴です。
ピラミッドメソッド教育は、オランダ政府教育評価機構Cito(チト)が提唱する教育法です。スイスの心理学者・ピアジェや、旧ソ連の心理学者・ヴィゴツキーの学習理論などをベースとして開発されました。
「子どもの自主性」「保育者の自主性」「寄り添うこと」「距離をおくこと」の4つの基本概念を土台とした、ピラミッド型(四角すい)の教育理論が名称の由来です。子どもたちが安心して遊べる環境作りが重視され、保育者は1人1人の発達に応じて、それぞれが主体的に行動できるよう促します。発達の段階は「個性」「情緒」「知覚」「言葉」「思考」など8領域に分類され、どの段階にあるのかを主体的に見極めるのは保育者です。そのため、子どもだけでなく保育者の自主性を育むことも重視されています。ピラミッドメソッド教育では、決断力や自己解決力が育まれるといわれています。
ドーマンメソッドは、人間能力開発研究所の創設者であるグレン・ドーマンが提唱した、アメリカ発の教育法です。100カ国以上の子どもの脳の発達について研究していたドーマンは、その結果から、0歳から6歳までの子どもたちの脳に刺激を与えることの重要性に気づきました。
ドーマンメソッドといえば、白地に赤丸が描かれた「ドッツカード」を見せて数学的な素地を育む方法がよく知られていますが、これは単に数学を学ぶだけのテストではありません。ドッツカードを使うことで、子どもの理解力や判断力、好奇心が育まれるほか、親子で一緒に行うことで、大人になってからも良好な親子関係が続くといわれています。ドーマンメソッドでは、体を動かすことも大切にされており、赤ちゃんの頃から水泳を行うことなどを推奨しています。
ヨコミネ式教育法は、女子プロゴルファーである横峯さくらさんの伯父・横峯吉文氏が提唱する教育法です。保育園を経営し、長年にわたって子どもたちを見てきた経験から、「競争したがる」「真似したがる」「少し難しいことをしたがる」「認められたがる」という子どもの性質を「4つのスイッチ」と名付けて意識し、やる気を引き出します。
自立を促すうえでは、「読み」「書き」「計算」「体操」「音楽」を行う中で、「学ぶ力」「体の力」「心の力」を身に付けていくのが特徴です。ヨコミネ式を実践する教育施設では、子どもが逆立ちで歩いたり、漢字の読み書きを早期にマスターしたりといった成果が注目されがちですが、子どもの自立を育むことが本質であり、将来トラブルに見舞われたときにもくじけない心が育まれるとされています。
幼児教育は、成長の段階に合わせて適切に行うことで効果を発揮します。ここでは、おすすめの幼児教育について年齢別に紹介していきます。
1歳児は体や言葉を使ったコミュニケーションが始まり、記憶力が伸びる時期です。「見る」「聞く」「触る」「なめる」「嗅ぐ」など、五感をたっぷり刺激することで、脳が発達していきます。「同じ行動をする」「真似をする」など、ほかの人とのコミュニケーションによって成長が促されるため、絵本の読み聞かせをしたり、指差しをして声かけをしたりすると良いでしょう。
「魔の2歳児」という言葉がありますが、2~3歳の時期は反抗的な態度をとることがあります。これは自我が芽生え始めた証拠で、より成長を促すことができるチャンスともいえます。この時期は、生涯にわたる学習や生活習慣の基礎が身に付く重要な時期です。生活リズムが整い始め、発語が活発になり、数や形を見分けられるようになります。1歳児のころに比べて体をより大きく、より細かく使うことができるようになるため、ブロック遊びや型はめ、シール貼りなどの遊びから脳への刺激を行うことが可能です。
パズルや簡単なドリルを使って遊びの中で学ぶこともできるようになります。また、友達との遊びを通じて、相手の気持ちを考えるシーンも増え、コミュニケーション能力が高まります。トイレでの排泄ができるようになる子もいるかもしれません。絵本を読むときには大人が子どもへ一方的に読んで聞かせるのではなく、会話をしながら一緒に読むとよいでしょう。発語が豊かになるだけでなく、感情を整理して表現する練習になります。
4歳になると多くの子どもは幼稚園に入り、集団生活をスタートさせます。教育の場も家庭から幼稚園や保育園、地域へと大きく広がり、より多くの他者と触れ合う時期が到来します。言葉の習得や自分の気持ちの理解が進むため、自分の意思を相手に伝えたり、気持ちが伝わることを楽しいと感じたりする一方、うまくコミュニケーションがとれずに壁にぶつかってしまうこともあるかもしれません。トライアンドエラーを繰り返す中で社会性が身に付いていくので、決められたルールを理解し、自分の気持ちを上手に表現できるように導いてあげることが大切です。
4歳~6歳になると高い身体能力が身に付き、行動範囲が広がります。細かい作業がよりできるようになるため、着替えや歯磨き、手伝いなど、日常生活のさまざまなことに関われるようになります。中には危険が伴う場合もありますが、大人がそばで見守り、安全な環境を作ることで、できるだけ挑戦させてあげるとよいでしょう。大人と同じことができると、達成感や自信を得ることができます。
この時期には、鉛筆をもって文字を書くこともできるようになります。数字や文字に興味を示したら、一緒に書いてみましょう。ここで大切なのは強制するのではなく楽しんで行うことです。6歳までに行う家庭での幼児教育は、小学校以降の学力に影響するといわれていますが、気分が乗らないときに勉強を強いてしまうと「勉強嫌い」になってしまいかねません。あくまでも楽しみながら、「もっとやりたい」という気持ちを引き出して経験を積めるように促しましょう。
幼児教育を受けることによって培われる人間性の基礎は、生涯にわたって役に立つ、大人から子どもへの贈り物といえるかもしれません。幼児期に触れる教育は、その後の人生でどのような能力を開花させることができるかに大きく影響するからです。さまざまな幼児教育の中から、子どもの年齢や性格、伸ばしたい性質に合うものを選ぶようにしましょう。「チャイルド・アイズ」では、知識や経験を「受け入れる力」、推理したり、想像したりする「考える力」、言葉や行動で「表現する力」の3つのプロセスを体験することで、思考力を伸ばし、人間力を高めていきます。「知能育成コース」では、1.5歳から7歳まで、年齢や成長に合わせたカリキュラムが用意されており、無料体験レッスンも実施中です。考える楽しさを知り、将来の選択肢を広げる体験をしてみませんか。